裏打ちとは、作品本紙のしわ、たるみを防ぎ、補強することです。
もっとも裏打ちがされるのは、水墨画や書道の作品で、多くは和紙に書いてある作品です。
紙はその性質上、墨などの水分が加わると収縮します。作品を描くとき、墨を乗せた部分の紙は収縮し、墨の乗らない部分は収縮しません。
これが繰り返されることにより作品本紙には歪みが生じ、しわやたるみが生まれます。
このしわやたるみを伸ばすため、裏打ちがされます。
裏打ちされた作品の美しさは一目瞭然。
しわやたるみはもちろん無くなり、作品本紙の裏に裏打ち用紙の白色が加わることで、墨の色もはっきりと出ます。
裏打ちによって作品の印象がガラリと変わることもあるので、裏打ちまで含めて作品の完成といってもいいでしょう。
作品をより引き立てる裏打ちは、額装や掛軸にするときには必須の作業なのです。
・手ぬぐいの裏打ち![]()
手ぬぐいは薄手の布なので、飾ろうとするとどうしてもしわやたるみが目立ちます。アイロンをかければ一時的にはしわも伸びますが、飾っているうちにずり落ちてしわになってしまうことでしょう。
裏打ちすると、手ぬぐいの裏にもう一枚紙が貼られて補強されるのでこういった心配がありません。また、裏打ちで手ぬぐいが固定されるので布地の伸び縮みがなくなり、額装も簡単になります。
・着物の刺繍部分を裏打ち
刺繍はそれぞれの糸が土台の布を引っ張り合って、複雑なしわができてしまうことがあります。このように物理的な力でできてしまったしわは均等に伸ばすのが非常に難しく、飾るときに苦労します。
引っ張り具合を調整して、だましだまししわを伸ばして裏打ちしてしまえば、伸ばしたままでなんとか美しく固定することができます。あとは額に入れるなりすれば、非常に価値のあるインテリアとなるでしょう。
・Tシャツを裏打ち![]()
サイン入りのTシャツを額に入れたいというお客様、思い出の写真と共に額装してみました。
Tシャツはハンガーを使って掛けて飾る専用額もありますが、裏打ちして額装マットをあしらって飾るのもおすすめです。Tシャツを一枚の布にしてしまえば額縁の選択肢が広がって、なおかつ安価に仕上げることができます。
シャツを切ることさえ厭わなければ、Tシャツは単純な一枚布ですので裏打ちも簡単です。
・ろうけつ染めを裏打ち
海外旅行で求めたろうけつ染めのお土産を裏打ちしました。
ろうけつ染めは薄手の布なので、裏打ち自体簡単に済み、驚くほどに伸びて美しくなります。
ただし、布に蝋が残っているときは注意が必要です。乾式裏打ちの熱によって蝋が溶け、作品や周りに蝋が広がってしまうことがあります。作品を充分に点検することが大切です。
裏打ちには『乾式裏打ち』と『湿式裏打ち』があります。
まずは乾式裏打ちから説明していきましょう。
乾式裏打ちでは、熱によって溶ける、糊のフィルムが貼られた裏打ち用紙を使います。作品本紙をこの裏打ち用紙に乗せて、ドライマウントプレス機でプレス、熱を加えることによって貼り付けます。
具体的な手順を追ってみましょう。
まずは作品本紙のしわを伸ばす作業を行います。
作品本紙を裏返して、霧吹きで水をたっぷりと吹き付けます。その後、均等に水を含ませるために、中心から外側に向かってしわを伸ばしながら刷毛を掛けます。
作品に水をかけると墨が流れて作品が台無しになりそうですが、『墨』が水に流れることはありません。たとえ作品をお風呂に浸けたとしても、紙が破れない限りは安心です。
ただし筆ペンなどを使った作品など、元来の墨と違うものは水に流れる恐れがあります。
保護紙を上に乗せて、ドライマウントプレス機でプレスをかけます。
ドライマウントプレス機とは、簡単に言えば大きなアイロン。作品に熱を加えて水分を飛ばしつつ、均等に圧力をかけて紙をぴんと伸ばします。
作品のしわがひどかったり、折り目が強く付いた作品の場合、一回のプレスでは完全にしわ・折り目が伸びないこともあります。
その場合、水を吹き付ける量を調整しながら再度プレスをかけます。
基本的に『和紙』は頑強なので、例えぐしゃぐしゃに丸められた作品でもまっすぐに伸ばすことが可能です。
充分に水分を飛ばしてから、裏打ち用紙に作品本紙を乗せます。裏打ち用紙の光沢のある面が糊面です。
あとはもう一度ドライマウントプレス機にかけるだけですが、乾式裏打ちしてしまうと再度剥がすのは困難です。裏打ち用紙と作品本紙の間に異物が無いか、裏返しで裏打ちしようとしていないかをよく確認します。
折れ目が付いたり、毛などの異物を巻き込んでは作品が台無しです。目を皿のようにして確認しないといけません。
プレスが終われば、乾式裏打ちの完成です。乾式裏打ちのメリットは、作業効率がよく、安価に均一な仕上がりとなることです。
裏打ちすることで墨の色もくっきりとなりました。
乾式裏打ちは前出のような市販の裏打ち用紙を使って、ご家庭のアイロンで行うことも可能です。ちょっとしたコツが必要なので始めは失敗してもよい作品で練習してください。
湿式裏打ちは、昔ながらの表具糊を使った裏打ち方法です。
乾式裏打ちに比べて、刷毛(はけ)の扱いや表具糊の濃度など、日本古来の職人技術とノウハウを要する作業になります。
ちなみに紙と糊の扱いに精通し、乾燥・加湿をコントロールして掛軸、屏風、襖などを仕上げる職人を『表具師』と呼びます。
作品本紙のしわをとって満遍なく湿らせたら、裏打ち用紙に表具糊をつけます。全体に薄く均等に、手早く塗るのがポイントです。
表具師にとって糊は命の次に大事なもの。その製法は工房ごとの門外不出の秘伝として扱われていたようです。
表具糊を塗った裏打ち用紙を、作品本紙に重ねます。ものさしなどを使って、裏打ち用紙がしわにならないように端から順に重ねます。
重ねたあとは、棕櫚刷毛を充分にかけてしわを取り除きつつ、作品本紙と裏打ち用紙を密着させます。
裏打ち用紙は場合によって1枚であったり、2枚重ねにしたりします。2枚重ねる場合はこの作業をもう一度繰り返します。
続いて乾燥に移ります。作業台から剥がす前に、作品の4辺に糊を付けておきます。中心部分に糊は付けません。このように全面に糊を付けずに4辺だけ糊を付ける貼り方を『袋張り』と呼びます。
作品の下に敷いていた不織布ごと作品を作業台から剥がし、仮張り板に貼り付けます。4辺の糊をよく貼り付けたら不織布を取り除いて乾燥させます。
ずっと裏返しのまま作業していたので、仮張り台に貼り付けて始めて作品の表面が見えました。
乾燥に要する時間は半日~1日くらいでしょうか、袋張りにした糊を剥がせば湿式裏打ちの完成です。画像ではお伝えしづらいのですが、乾式裏打ちに比べると、やわらかく風合いある仕上がりになっています。
また表具糊は水に溶け、簡単に剥がすことができます。このため再表装を行うことを見越して、掛軸などは基本的に湿式裏打ちで行われます。
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